特養の看取り期、訪問看護費は医療保険と介護保険どちらから出るのか

特別養護老人ホーム(特養)で看取りを行う際、現場から必ず出る疑問が、訪問看護の費用は医療保険と介護保険のどちらから支払われるのかという点です。この給付調整のルールを誤ると、レセプトの返戻や実地指導での指摘につながります。2026年改定ではD to P with N(訪問看護師同席型オンライン診療)の普及も進む中、看取り期の医療提供体制と給付調整のルールがどう整理されるのか、現行制度を踏まえて具体的に解説します。

現行制度の原則ー介護保険優先の考え方とは

特養は介護保険施設であり、入所者の医療的ケアにかかる費用は原則として施設サービス費に包括されています。そのため外部の訪問看護ステーションが医療保険で訪問看護を提供することは、原則としてできません。これは特養に配置医師が置かれ、日常的な健康管理は施設内で完結することが前提とされているためです。

しかし看取り期には、通常の介護保険サービスだけでは対応しきれない医療ニーズが生じます。そこで一定の条件を満たす場合に限り、例外的に医療保険の訪問看護が認められています。

別表第7に該当する疾病等の一覧

厚生労働大臣が定める疾病等(いわゆる別表第7)に該当する場合、特養入所者であっても医療保険の訪問看護を利用できます。看取り期に関係の深い代表的な疾病は次の通りです。

区分主な該当疾病
悪性腫瘍末期の悪性腫瘍(がん末期)
神経難病多発性硬化症、筋萎縮性側索硬化症、パーキンソン病関連疾患
呼吸器疾患慢性閉塞性肺疾患のうち一定の重症度
その他後天性免疫不全症候群、頸髄損傷など

看取り期に特養入所者で最も算定件数が多いのは末期の悪性腫瘍です。がん末期の診断が確定した時点で、施設側は主治医と連携し、医療保険による訪問看護導入の可否を早めに検討する必要があります。

特別訪問看護指示書による例外

もう一つの例外が特別訪問看護指示書です。急性増悪や終末期で頻回の訪問看護が必要と主治医が判断した場合に交付され、交付日から14日間、医療保険の訪問看護が算定できます。原則月1回までですが、気管カニューレを使用している場合や真皮を越える褥瘡がある場合は月2回まで交付可能です。看取り期の急変時にはこの指示書の活用が実務上のポイントになります。

看取り期に給付調整で誤りやすい3つのケース

現場でよく発生する給付調整のミスは次の3つです。

  1. 別表第7該当の診断がついているにもかかわらず、介護保険の訪問看護(施設内対応)のまま処理してしまう
  2. 特別訪問看護指示書の有効期間(14日間)を超えて医療保険で請求してしまう
  3. 看取り介護加算と医療保険の訪問看護費を同一日に重複して計上してしまう

いずれも実地指導での返還指摘につながりやすいポイントです。特に3つ目は、看取り介護加算が介護保険側の施設サービス費に含まれる加算であるのに対し、医療保険の訪問看護費は別建てで請求されるため、記録上の区分を明確にしておく必要があります。

2026年改定で何が変わるのか

2026年改定では、看取り期における医療と介護の連携強化が引き続き重点テーマとされています。特にD to P with Nの活用が広がる中で、給付調整の運用面での整理が進むと見られます。

D to P with N活用時の給付調整はどう整理されるか

D to P with Nは訪問看護師がオンライン診療に同席する仕組みで、特養においても配置医師や協力医療機関の医師が遠隔で診察し、施設内の看護職員が同席するケースが想定されます。この場合、同席する看護職員が施設の介護職員なのか、外部の訪問看護ステーションから医療保険で訪問している看護師なのかによって、費用の請求区分が変わります。2026年改定では、この同席主体の区分を明確にする通知や留意事項が示される可能性が高く、施設側は事前にどちらの体制で運用するか整理しておく必要があります。

看取り連携体制加算との関係

2024年改定で新設された看取り連携体制加算は、特養が看取り期の入所者に対し、配置医師や協力医療機関と連携して看取りを行った場合に介護保険側で算定できる加算です。この加算は医療保険の訪問看護費とは独立した枠組みですが、記録上は同じ利用者の同じ時期に発生するため、どちらの保険でどのサービスを提供したかを分けて記載することが求められます。2026年改定では、看取り期の記録様式についてもD to P with Nの実施記録と合わせて簡素化が図られる可能性があります。

実務チェックリスト:給付調整ミスを防ぐために

看取り期の給付調整を適切に運用するために、次の項目を確認してください。

  • 入所者の疾病名が別表第7に該当するかを主治医と共有できているか
  • 別表第7該当となった時点で訪問看護指示書の切り替えを行っているか
  • 特別訪問看護指示書の有効期間(14日間)を台帳等で管理しているか
  • 看取り介護加算と医療保険訪問看護費の請求日が重複していないか確認しているか
  • D to P with N実施時に同席者が誰か(施設職員か外部訪問看護師か)を記録しているか
  • 実地指導に備えて医療保険適用の根拠となる診断書や指示書を保管しているか
  • 家族への説明時に、医療保険適用による自己負担の違いを説明できているか

このチェックリストは月次のカンファレンスや看取り事例の振り返りの際に活用することで、算定漏れや過誤請求を未然に防ぐことができます。

まとめ

特養の看取り期における給付調整は、原則介護保険優先という大枠のもとで、別表第7該当疾病や特別訪問看護指示書という例外規定を正しく理解して運用することが求められます。2026年改定ではD to P with Nの普及に伴い、同席者の区分や記録要件がより明確化される見通しであり、施設側は今のうちから運用フローと記録様式を整理しておくことが重要です。制度の細部は今後の告示や通知で確定するため、改定情報を継続的に確認しながら、現場の記録体制を柔軟に見直していく姿勢が求められます。