空床が出たときに何が起きているか
特別養護老人ホーム(特養)では、入所者の入院や外泊で居室が一時的に空きます。このとき施設の収入は次のようになります。
入所者が病院または診療所へ入院した場合、および居宅における外泊を認めた場合は、1月に6日を限度として、所定単位数に代えて1日につき246単位を算定します。入院または外泊の初日と最終日は算定できません。外泊中に施設が居宅サービスを提供する場合は、同じく1月6日を限度として1日560単位です。
つまり7日目以降は、その居室からの収入が止まります。入院が長引くほど空床は純粋な機会損失になります。
空床を使う仕組みは加算ではない
まず用語を整理します。特養の介護福祉施設サービスに「短期利用加算」という名称のものはありません。
空床を使って在宅の要介護者を短期間受け入れる仕組みは、加算ではなく、居宅サービスである短期入所生活介護です。指定居宅サービス等の事業の人員、設備及び運営に関する基準(平成11年厚生省令第37号)第121条第2項は、特別養護老人ホームであってその全部または一部が入所者に利用されていない居室を利用して指定短期入所生活介護の事業を行うものについて、人員の特例を定めています。これがいわゆる空床利用型です。
空床利用型の人員と設備の特例
空床利用型には、通常の短期入所生活介護事業所と比べて次の特例があります。
| 項目 | 通常の事業所 | 空床利用型の特養 |
|---|---|---|
| 従業者の員数 | 医師1以上、生活相談員100対1、介護職員または看護職員3対1など | 利用者を特養の入所者とみなした場合に特養として必要とされる数が確保されていればよい |
| 利用定員 | 20人以上、専用の居室を設ける | 専用の居室は不要(第123条ただし書) |
| 設備 | 居室、食堂、機能訓練室など所定の設備 | 特別養護老人ホームとして必要とされる設備を有することで足りる(第124条第5項) |
人員を丸ごと別建てする必要がないため、既存の職員配置のまま始められる点が空床利用型の実務的な強みです。ただし短期入所生活介護は居宅サービスであり、事業を行うには都道府県知事等の指定を受ける必要があります。空床があるから自動的に受け入れられる、というものではありません。
報酬はどの区分になるか
空床利用型が算定するのは、併設型短期入所生活介護費です。厚生労働大臣が定める施設基準(平成27年厚生労働省告示第96号)第9号ロで、第121条第2項の適用を受ける特別養護老人ホームは併設型の施設基準に置かれています。
| 要介護度 | 併設型短期入所生活介護費 | 併設型ユニット型短期入所生活介護費 |
|---|---|---|
| 要介護1 | 603単位/日 | 704単位/日 |
| 要介護2 | 672単位/日 | 772単位/日 |
| 要介護3 | 745単位/日 | 847単位/日 |
| 要介護4 | 815単位/日 | 918単位/日 |
| 要介護5 | 884単位/日 | 987単位/日 |
従来型個室は(Ⅰ)、多床室は(Ⅱ)の区分になりますが、単位数はいずれも同額です。
短期入所生活介護にも独自の加算があります。居宅サービス計画に計画的に位置づけられていない短期入所生活介護を緊急に行った場合の緊急短期入所受入加算は、利用開始日から起算して7日(家族の疾病等やむを得ない事情がある場合は14日)を限度として1日につき90単位です。
収支はどう変わるか
1単位10円(その他地域)として、多床室の要介護3の入所者が入院し、その空床を短期入所で埋めた場合を比較します。
| 状態 | 1日あたりの収入 |
|---|---|
| 入院1〜6日目(初日・最終日を除く) | 246単位=2,460円 |
| 入院7日目以降、空床のまま | 0円 |
| 空床を短期入所生活介護で埋めた場合(要介護3・多床室) | 745単位=7,450円 |
空床1床を月20日埋められれば、745単位×10円×20日で14万9,000円です。地域区分によって単価は上がるため、自施設の単価に置き換えて計算してください。
なお、短期入所生活介護費にも業務継続計画未策定減算(所定単位数の1パーセント)や身体拘束廃止未実施減算(同1パーセント)があります。空床活用を始める前に、減算に該当していないかを確認しておく必要があります。
日数管理が算定可否を分ける
最も間違いが起きやすいのが日数管理です。告示は、利用者が連続して30日を超えて指定短期入所生活介護を受けている場合、30日を超える日以降に受けたものについては短期入所生活介護費を算定しないと定めています。
連続利用が30日に近づいたら、本入所への切替を検討するか、いったん在宅へ戻す調整が必要になります。入退所日を一覧で管理する台帳を持ち、月次で連続日数を確認する運用にしてください。
運用チェックリスト
月次の会議で次を確認します。
- 短期入所生活介護の指定を受けているか、指定内容と実際の運用が一致しているか
- 短期利用者の入退所日が台帳で一元管理されているか
- 連続利用日数が30日を超えていないか
- 短期入所生活介護計画が利用開始前に作成されているか
- 特養の入所者と短期入所の利用者を合算した人数で、人員基準を満たしているか
- 入院・外泊の246単位の算定日数(1月6日)を超えていないか
- 地域の居宅介護支援事業所へ受入可能な状況を定期的に伝えているか
人員の確認は特に重要です。空床利用型の人員基準は「利用者を入所者とみなした場合に特養として必要とされる数」であり、短期入所の利用者が増えれば必要な職員数も上がります。
まとめ
特養の空床を収益化する道は、加算ではなく空床利用型の短期入所生活介護です。人員と設備には特例があり、専用居室を用意せずに始められますが、居宅サービスの指定は必要です。報酬は併設型短期入所生活介護費で、多床室の要介護3なら1日745単位。入院・外泊時の246単位が1月6日で尽きることを考えると、空床を埋める価値は数字で説明できます。運用の要は、連続30日の上限管理と、利用者を合算した人員基準の確認の2点です。
出典
- 指定居宅サービス等の事業の人員、設備及び運営に関する基準(平成11年厚生省令第37号)第121条第2項・第123条・第124条第5項 https://laws.e-gov.go.jp/law/411M50000100037
- 指定居宅サービスに要する費用の額の算定に関する基準(平成12年2月10日厚生省告示第19号)短期入所生活介護費 https://www.mhlw.go.jp/web/t_doc?dataId=82aa0253&dataType=0&pageNo=1
- 厚生労働大臣が定める施設基準(平成27年3月23日厚生労働省告示第96号)第9号・第10号 https://www.mhlw.go.jp/web/t_doc?dataId=82ab4585
- 指定施設サービス等に要する費用の額の算定に関する基準(平成12年2月10日厚生省告示第21号)介護福祉施設サービス 注20・注21 https://www.mhlw.go.jp/web/t_doc?dataId=82aa0255&dataType=0&pageNo=1
