「嚥下困難な利用者は全員ミキサー食」——この時代は終わりつつある。利用者の嚥下機能に合わせた段階的な食事提供が、尊厳と楽しみを守る介護の基本となっている。本稿では、嚥下食の段階設定と、それに連動する加算算定の実務を解説する。
嚥下食の3段階モデル
嚥下食は次の3段階に分けて提供する。
- ソフト食(軟らかいが形は残る)
- きざみ食とろみ付き(刻んであるがテクスチャーは維持)
- ミキサー食(ペースト状)(ゼリー状・ピューレ状)
これらは「日本摂食嚥下リハビリテーション学会分類」に対応しており、国際標準でもある。
段階設定の基準
段階は次の3点で決める。
- 嚥下機能評価(RSST・改訂水飲みテスト・VF/VE)
- 口腔機能評価(歯の状態・咀嚼力)
- 本人の希望(食事への意欲)
「安全だから全部ミキサー」の発想は間違い。嚥下機能が維持されている人にミキサー食を出すと、機能低下を加速させる。
栄養マネジメント加算(強化加算)
2021年に栄養マネジメント加算は本体報酬に組み込まれたが、栄養マネジメント強化加算(11単位/日)が新設された。要件は:
- 管理栄養士を常勤換算で入居者50名あたり1名以上配置
- 低栄養リスク者の月3回以上のモニタリング
- ミールラウンドの実施と記録
50床特養で取得すれば年額200万円。管理栄養士1名の人件費が回収できる水準だ。
経口維持加算
経口維持加算I(400単位/月)、II(100単位/月)も重要。要件:
- 摂食嚥下機能評価の実施
- 多職種による経口維持計画
- 月1回の評価と計画見直し
50床特養で算定者が20名いれば、年額約96万円(加算I)。算定率が低い施設が多いのが実情で、ここは改善余地がある。
嚥下評価の実務
嚥下評価は看護師・言語聴覚士・歯科衛生士などが担当する。STや歯科衛生士が常駐していない施設では、月1回の外部訪問を契約するのが現実的。
評価の頻度:
- 新規入所時
- 誤嚥性肺炎・熱発後
- 月1回の定期評価(A層)
- 3ヶ月ごとの定期評価(B・C層)
嚥下食のコスト
嚥下食は通常食より1食あたり50〜150円高い。50床特養で嚥下食対象者20名が3食食べると、月額約6万円の追加コスト。ただし、経口維持加算と相殺すれば大きく黒字化する。
ミールラウンドの運用
ミールラウンドは多職種(看護師・介護職・管理栄養士・歯科衛生士)で食事場面を観察する取り組み。週1回、1回30分で十分。観察ポイント:
- 姿勢は適切か
- 食器・スプーンは合っているか
- ムセ・咳込みはないか
- 食事量・時間は適切か
- 本人の表情は楽しそうか
1回のラウンドで複数の気づきが得られる。これが嚥下機能維持の鍵になる。
誤嚥性肺炎予防
特養での誤嚥性肺炎は死亡原因の上位。予防には口腔ケアが最重要。
- 毎食後の口腔ケア
- 週1回の歯科訪問診療
- 舌苔・口腔乾燥の観察
- 唾液腺マッサージ
これらを日々徹底することが、誤嚥性肺炎予防の基本になる。
次回は、特養の身体拘束適正化と減算を解説する。
出典
この記事で扱う制度・報酬の一次資料です。数値や要件は公開時点のものなので、最新の内容は原典でご確認ください。
- 厚生労働省「科学的介護情報システム(LIFE)関連加算に関する基本的な考え方並びに事務処理手順及び様式例の提示について(令和6年3月15日老老発0315第4号)」 https://www.mhlw.go.jp/content/12300000/001227990.pdf
- 厚生労働省「指定施設サービス等に要する費用の額の算定に関する基準(平成12年厚生省告示第21号)現行全文・厚生労働省法令等データベース」 https://www.mhlw.go.jp/web/t_doc?dataId=82aa0255&dataType=0&pageNo=1
- 厚生労働省「指定居宅サービスに要する費用の額の算定に関する基準(短期入所サービス及び特定施設入居者生活介護に係る部分)及び指定施設サービス等に要する費用の額の算定に関する基準の制定に伴う実施上の留意事項について(平成12年3月8日老企第40号)新旧対照表」 https://www.mhlw.go.jp/content/12300000/001227894.pdf
