【2026年9月20日 追記】令和8年度の介護報酬改定は、令和8年6月に施行されました。改定率は+2.03%で、内容は①介護職員等処遇改善加算の拡充②基準費用額(食費)1,445円→1,545円の2点です。加算の新設・廃止・要件の厳格化はありません。この記事に「改定の見込み」として書かれている内容は、実際の改定とは異なります。(出典:厚生労働省「令和8年度介護報酬改定について」)
「夜勤が一番しんどい」——これは全国の特養施設長が共通して抱える悩みだ。夜勤に人を出せば出すほど日勤が薄くなり、日勤を厚くすれば夜勤でヒヤリハットが増える。さらに2024年改定以降、夜勤配置加算の要件が厳格化され、単に「人数を置けば加算が取れる」状態ではなくなった。本稿では、オンコール方式と夜勤専従方式を数字で比較し、施設規模別の損益分岐点を示す。
なぜ今「夜勤体制の再構築」なのか
多くの特養は「何となく続いている夜勤シフト」を回している。10年前に作った2人夜勤体制をそのまま続け、看護師のオンコール報酬だけが物価にスライドして膨らんでいる、というケースは珍しくない。夜勤体制を再設計する意義は三つある。
第一に、離職率との直結である。介護労働安定センター2025年調査では、夜勤回数が月5回を超える施設で離職率が平均12ポイント高い。第二に、人件費構造だ。夜勤1回の実質コスト(夜勤手当+深夜割増+翌日休み)は施設によって8,000円〜18,000円まで幅がある。第三に、BCP対応力。感染症流行時に夜勤者がバタバタ倒れる体制では、2類相当に戻った時に一発で詰む。
オンコール方式の実質コスト
オンコール方式は「夜間は介護職のみが常駐し、医療判断が必要な時だけ看護師に電話する」形態である。一見安く見えるが、実質コストは次の式で計算する必要がある。
オンコール実質コスト = 待機手当 × 365日 + 呼出単価 × 年間呼出回数 + 翌日勤務免除分の人件費
たとえば50床特養で、待機手当3,000円/日×365=約110万円、呼出5,000円×年60回=30万円、翌日勤務免除相当=約40万円と置いて試算すると、年間約180万円となる。ここに「看護師の精神的負担による離職リスク」を織り込むと、隠れコストはさらに膨らむ。
オンコールの落とし穴
最大の落とし穴は「呼ばない文化」だ。介護職員が「夜中に電話したら怒られる」という空気になると、本来連絡すべき急変が朝まで放置される。結果として救急搬送が増え、家族対応が悪化し、退所率が上がる。オンコール方式の本当のKPIは「年間呼出回数」ではなく「呼出率/急変発生率」である。この比率が80%を下回っている施設は、体制そのものを疑うべきだ。
夜勤専従方式の損益分岐点
一方、夜勤専従方式は「夜勤だけを担当する専属職員を置く」形態である。人件費は高く見えるが、既存職員の日勤を厚くできるため、日勤の事故・離職を減らせる。損益分岐点を計算すると次のようになる。
| 施設規模 | オンコール年額 | 夜勤専従年額 | 差額 | 分岐点 |
|---|---|---|---|---|
| 30床 | 150万円 | 420万円 | -270万円 | オンコール優位 |
| 50床 | 180万円 | 420万円 | -240万円 | ほぼ同等(事故率で逆転) |
| 80床 | 260万円 | 480万円 | -220万円 | 夜勤専従優位 |
| 100床超 | 340万円 | 520万円 | -180万円 | 夜勤専従優位 |
50床が実質的な分岐点である。50床以下ならオンコール+訪問看護連携、50床超なら夜勤専従(または看護師夜勤配置)が合理的だ。
ハイブリッド型:半専従モデル
最近注目されているのが「週3夜勤専従+週2日勤」のハイブリッド型だ。完全専従だと応募が集まらないが、半専従なら「夜勤手当で稼ぎたい層」「小さい子がいて日中動けない層」にリーチできる。
2026年改定を見据えた打ち手
2026年改定では夜勤配置加算の見直しが議論されている。特に「記録のICT化」と「夜間見守りセンサー導入」を要件に組み込む案が浮上しており、センサー未導入の施設は加算単位が下がるリスクがある。今から動くなら、①半専従モデルの募集開始、②夜間見守りセンサーの補助金申請、③オンコール呼出率の可視化、の三点セットが最優先だ。
夜勤体制は「文化」として固定化しやすい。しかし数字を入れて冷静に見直せば、構造改善の余地が見えてくる。次回は、看護師採用で紹介会社費用をゼロにする実務手順を解説する。
出典
この記事で扱う制度・報酬の一次資料です。数値や要件は公開時点のものなので、最新の内容は原典でご確認ください。
- 厚生労働省「令和8年度介護報酬改定の概要(厚生労働省老健局)」 https://www.mhlw.go.jp/content/12404000/001675936.pdf
- 厚生労働省「令和8年度介護報酬改定について(厚生労働省)」 https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000188411_00073.html
