
若年性認知症利用者受入加算、算定できる施設・できない施設の分かれ目とは
監修: 中村 康宏(株式会社Anchor 代表取締役 / 医師)
この記事のポイント
2026年改定で新設が検討される若年性認知症利用者受入加算について、想定要件と収益試算をまとめました。専門職配置や個別支援計画の整備状況が算定可否を分けます。
若年性認知症利用者受入加算とは何か
若年性認知症とは65歳未満で発症する認知症の総称で、厚生労働省の2020年推計では全国に約3万5700人の患者がいるとされています。就労世代での発症であるため、経済的な問題や家族の介護負担、本人の喪失感など高齢期の認知症とは異なる支援課題を抱えています。
特養は本来65歳以上を入所対象としていますが、40歳以上65歳未満でも初老期における認知症などの特定疾病に該当すれば第2号被保険者として入所が可能です。しかし現行の介護報酬体系では、若年性認知症特有の支援ニーズに対応するための加算は整備されておらず、受け入れた施設が支援の手間に見合う収益を得られていないという指摘が審議会でも取り上げられてきました。
2026年の介護報酬改定では、この課題に対応する形で若年性認知症利用者受入加算の新設が論点の一つとして挙がっています。本記事では執筆時点で示されている審議会資料や関連する既存加算の設計思想をもとに、想定される要件と収益インパクトを整理します。
2026年改定でどのような要件が想定されているか
類似の枠組みである若年性認知症支援コーディネーター制度や、グループホームにおける若年性認知症利用者受入加算の要件を踏まえると、特養向けにも以下のような要件が設定される可能性があります。
| 想定要件 | 内容 |
|---|---|
| 専門研修修了者の配置 | 認知症介護実践者研修または若年性認知症に関する研修の修了者を1名以上配置 |
| 個別支援計画の策定 | 就労歴、家族構成、経済状況を踏まえた個別支援計画を入所時と半年ごとに見直し |
| 外部連携体制 | 若年性認知症支援コーディネーターまたは地域包括支援センターとの連携窓口を設置 |
| カンファレンス実施 | 対象利用者ごとに月1回以上の多職種カンファレンスを実施し記録を保存 |
| 家族支援の実施 | 年1回以上、家族向けの相談機会または研修を提供 |
単位数については未確定ですが、認知症ケア加算IIが1日あたり53単位である点や、若年性認知症利用者受入加算がグループホームで日額120単位程度で設計されている前例を踏まえると、特養向けでも1日あたり60から120単位程度のレンジで議論される可能性が高いとみられます。
算定できる施設とできない施設は何が違うのか
加算の算定可否を分けるポイントは、体制の有無だけでなく記録と運用の継続性にあります。実務上つまずきやすいポイントを一覧にしました。
| チェック項目 | 確認内容 |
|---|---|
| 対象者の把握 | 40歳以上65歳未満の入所者が何人在籍しているか名簿化しているか |
| 研修修了者の在籍 | 該当研修の修了証を保管し、配置状況を台帳で管理しているか |
| 個別支援計画の様式 | 就労歴や経済状況の項目が計画書のフォーマットに組み込まれているか |
| カンファレンス記録 | 開催日、参加職種、検討内容、次回課題が記録として残っているか |
| 外部連携の証跡 | コーディネーターや包括支援センターとの連絡記録、紹介実績があるか |
| 家族支援の実施記録 | 相談会や説明会の開催記録、参加者名簿が保管されているか |
これらが未整備のまま算定要件が公表されると、施行後の準備期間内に体制を整えられず算定開始が数か月遅れる施設が出てくることが予想されます。特に個別支援計画の様式変更は、既存の介護計画システムの改修が必要になるケースもあるため、早期の情報収集が欠かせません。
収益インパクトはどの程度見込めるか
仮に加算単位を1日80単位、地域区分による割増を考慮せず1単位10円で試算した場合の年間増収額を示します。
| 対象利用者数 | 1日あたり加算額 | 年間稼働日数 | 年間増収額(概算) |
|---|---|---|---|
| 1名 | 800円 | 365日 | 約29万円 |
| 3名 | 2400円 | 365日 | 約87万6000円 |
| 5名 | 4000円 | 365日 | 約146万円 |
| 10名 | 8000円 | 365日 | 約292万円 |
定員80名規模の特養で若年性認知症の対象者が3名在籍している場合、年間87万円前後の増収が見込める計算になります。一方で、専門研修受講費用や個別支援計画様式の改修、外部連携のための人員配置コストを差し引くと、実質的な増収効果は圧縮される点に注意が必要です。研修受講費用は1人あたり2万円から5万円程度、様式改修は委託先によって10万円から30万円程度が目安となります。
対象者が1名から2名程度にとどまる施設では、体制整備コストが加算収入を上回る可能性もあるため、算定を目指すかどうかは施設内の該当者数の推移を過去3年分程度確認したうえで判断することをおすすめします。
施設として今から準備すべきことは何か
改定の詳細が確定する前から着手できる準備を整理します。
- 現在の入所者のうち40歳以上65歳未満で特定疾病に該当する利用者を洗い出す
- 認知症介護実践者研修の受講計画を職員配置表に組み込む
- 個別支援計画の様式に就労歴や経済状況の欄を追加できるか検討する
- 地域の若年性認知症支援コーディネーターの連絡先を把握し、顔の見える関係を作っておく
- 家族向け相談会の年間スケジュールを仮組みしておく
特に3番目の様式改修は、既存の介護記録システムの仕様によって対応期間が大きく変わります。改定告示から算定開始までの準備期間は数か月程度しか確保されないことが多いため、システムベンダーへの事前相談は早いに越したことはありません。
まとめ
若年性認知症利用者受入加算は、2026年改定における新設候補の一つとして注目されています。想定される要件は専門研修修了者の配置、個別支援計画の充実、外部連携体制の構築など、既存の認知症ケア加算IIと重なる部分もありますが、就労世代特有の支援課題に対応した運用が求められる点が特徴です。収益インパクトは対象者数に比例するため、まずは自施設の該当者数を把握し、体制整備コストとのバランスを見極めたうえで算定準備を進めることが重要です。