夜勤体制のコストはなぜ経営を圧迫するのか
特養の運営費のうち人件費が占める割合は大きく、なかでも夜勤帯の人件費は基本給に加えて夜勤手当、深夜割増賃金、オンコール手当など複数の要素が重なるため、日中帯よりも単価が高くなる傾向があります。人員配置を見直す際は、まず夜勤体制にどれだけのコストがかかっているかを数値で把握することが出発点になります。
人件費率は次の式で算出します。
人件費率(パーセント)= 対象期間の人件費合計 ÷ 対象期間の介護事業収益 × 100
夜勤体制だけを切り出して見る場合は、分子を夜勤帯にかかる人件費(基本給の夜勤相当分、夜勤手当、深夜割増賃金、オンコール手当の合計)に絞り込みます。施設全体の人件費率と夜勤帯だけの人件費率を分けて管理すると、どこにコストが偏っているかが見えやすくなります。
夜勤職員配置の法定最低ラインを確認する
特養の夜勤職員配置は、指定介護老人福祉施設の人員、設備及び運営に関する基準で入所者数に応じた最低人数が定められています。従来型の施設では、入所者数の区分ごとにおおむね次のような最低人数が求められます。
| 入所者数の区分 | 夜勤職員の最低人数 |
|---|---|
| 25人以下 | 1人以上 |
| 26人以上60人以下 | 2人以上 |
| 61人以上80人以下 | 3人以上 |
| 81人以上100人以下 | 4人以上 |
| 100人を超える場合 | 4人に、100人を超える人数を25で除した数を加えた数以上 |
ユニット型施設については、ユニットごとに常時1人以上の職員を配置することが原則とされており、一定の要件を満たす場合に複数ユニットを1人の職員が兼務する形も認められています。自施設がどの区分に該当するかを確認し、現在の配置人数が最低基準を上回っているか、どの程度の余裕を持たせているかをまず整理しておく必要があります。
加算を踏まえた人員配置の考え方
最低基準を上回る人員を配置する施設では、夜勤職員配置加算の算定を検討することができます。この加算は、夜勤を行う職員の数が基準を上回る場合や、見守り機器などのテクノロジーを活用して夜勤負担を軽減しながら手厚い配置を行う場合に設定されており、区分ごとに単位数が異なります。加算を取得することは収益を押し上げる一方で、人員を増やす分の人件費も発生するため、加算収入と追加人件費の差し引きで実質的にプラスになるかどうかを必ず試算しておくことが重要です。
試算の際は次の項目を確認します。
- 加算区分ごとの算定要件(夜勤時間帯の職員数、見守り機器等の導入状況)
- 加算を算定した場合に増える夜勤職員の人数と人件費の増分
- 加算収入の見込み額(単価は告示で区分ごとに定められているため、最新の告示・通知を確認する)
- 増分の人件費と加算収入を比較した場合の差額
深夜割増賃金という固定コストを忘れない
夜勤体制のコストを考えるうえで見落とされがちなのが、労働基準法に基づく深夜割増賃金です。午後10時から午前5時までの労働については、通常の賃金に加えて25パーセント以上の割増賃金を支払うことが義務づけられています。夜勤シフトを組む時間帯によって深夜時間帯にかかる労働時間が変わるため、シフトの開始時刻と終了時刻を調整するだけでも、同じ人数配置でも人件費総額が変わることがあります。
夜勤シフトを設計する際は、深夜時間帯にかかる労働時間を洗い出し、どの時間帯にどれだけの割増賃金が発生しているかを可視化しておくと、配置の見直しによるコスト影響を具体的に試算できます。
人員配置パターンを比較する視点
夜間の人員配置には主に次のパターンがあり、それぞれコストの性質が異なります。
- 夜勤専従職員を配置するパターン 固定費として人件費が発生し、急変の有無にかかわらず一定のコストがかかる
- 二交代制・三交代制のローテーションで対応するパターン 日勤帯の職員が夜勤も担うため、シフト全体の人件費配分で見る必要がある
- 配置医師または協力医療機関へのオンコール体制を併用するパターン オンコール手当は発生時加算型が多く、呼び出し頻度によってコストが変動する
- 見守り機器等を活用して夜勤職員1人あたりの受け持ち人数を見直すパターン 導入コストと人件費削減効果を比較する必要がある
どのパターンが適しているかは施設の規模、入所者の医療的ケアの必要度、夜間の急変発生頻度によって変わります。固定費型の配置はコストが読みやすい一方で、閑散時間帯も同じ人件費が発生します。発生時加算型のオンコール体制は平常時のコストを抑えられますが、急変が重なった場合には人件費が想定を超えることがあります。自施設の過去の夜間対応記録から、呼び出し頻度や対応内容を集計し、どちらのコスト構造が合っているかを検討することが実務上の出発点になります。
人件費率を適正化するためのチェックリスト
夜勤体制の人員配置を見直す際は、次の項目を確認します。
- 現在の夜勤職員数は法定最低基準を何人上回っているか
- 夜勤帯の人件費(基本給相当分、夜勤手当、深夜割増賃金、オンコール手当)を個別に集計できているか
- 夜勤職員配置加算を算定している場合、加算収入と追加人件費の差額はプラスかマイナスか
- 深夜割増賃金が発生する時間帯とシフト開始終了時刻にずれがないか
- 過去半年から1年の夜間呼び出し記録を集計し、オンコール発生頻度を把握しているか
- 見守り機器等の導入によって配置人数や加算区分の見直しが可能か検討したか
- 施設全体の人件費率と夜勤帯だけの人件費率を分けて月次で管理しているか
これらを定期的に確認することで、夜勤体制のコストが経営全体に与える影響を数値で把握し、過不足のない人員配置を判断する材料にすることができます。
まとめ
特養の夜勤体制コストは、法定の配置基準、夜勤職員配置加算、深夜割増賃金という三つの制度的な枠組みの上に成り立っています。人件費率を適正化するためには、まず自施設の配置人数が法定基準に対してどの程度の余裕を持っているかを確認し、夜勤帯の人件費を個別に集計したうえで、加算収入と追加人件費の差額を試算することが基本になります。そのうえで夜勤専従、交代制、オンコール併用、見守り機器活用といった配置パターンごとのコスト構造を比較し、自施設の入所者の状態や夜間対応の実態に合った体制を選ぶことが、無理のない人件費率につながります。
出典
- 厚生労働省令 指定介護老人福祉施設の人員、設備及び運営に関する基準
- 労働基準法第37条(時間外、休日及び深夜の割増賃金)
- 厚生労働省 介護報酬の算定構造に関する告示(夜勤職員配置加算関連)