特養の現場では夜間の職員不足が慢性化しており、人員配置基準を満たしながらシフトを組むこと自体が施設長や看護職員の大きな負担になっています。この状況を受けて、厚生労働省は見守り機器等のテクノロジーを導入した施設について、夜勤職員配置基準を緩和する特例を設けています。本記事では原則の配置基準と緩和特例の違い、緩和を受けるために必要な要件、導入までの実務手順をチェックリスト形式で整理します。
特養の夜勤職員配置基準はどう決まっているか
指定介護老人福祉施設の人員、設備及び運営に関する基準では、夜勤を行う介護職員又は看護職員の数について、入所者の数が25又はその端数を増すごとに1以上と定められています。これが特養における夜勤配置の原則です。
例えば入所者が50人の施設であれば、原則として夜勤職員は2人以上が必要になります。入所者が26人から50人の範囲であれば同じく2人以上となり、51人を超えると3人以上が必要になるという計算です。この基準は従来型・ユニット型のいずれにも適用されますが、ユニット型の場合はユニットごとの夜間体制も別途考慮する必要があります。
夜勤職員が基準ぎりぎりの人数しか確保できない状態が続くと、急変対応や排せつ介助が重なった際に一人の職員が同時対応を迫られる場面が増え、事故リスクの上昇や職員の離職につながります。この課題への対応策の一つとして位置づけられているのが、見守り機器等の導入による配置基準の緩和です。
見守り機器導入でどこまで緩和できるか
一定の要件を満たした施設については、夜勤職員配置基準が入所者27人ごとに1人以上に緩和される特例が設けられています。この特例は令和3年度介護報酬改定にあわせて基準省令が見直されたことで規定されたものです。
緩和幅は数値だけを見ると小さく感じられるかもしれませんが、入所者数が多い施設ほど夜勤職員1人分の人件費に相当する効果が生まれる仕組みになっています。加えて令和6年度介護報酬改定では、見守り機器に加えてインカムなど複数のテクノロジーを組み合わせて導入する施設について、生産性向上の取組を評価する方向性が示されています。施設ごとに適用可否や具体的な取扱いが異なるため、緩和を検討する際は必ず最新の告示・通知および都道府県や保険者への確認を行ってください。
緩和特例を受けるために必要な要件
緩和特例は見守り機器を設置しただけでは適用されません。安全性を担保する体制づくりとセットで求められる点に注意が必要です。主な要件は次のとおりです。
- 見守り機器等を入所者の一定割合以上に導入していること
- 見守り機器等の使用方法について夜勤職員全員が研修を受けていること
- 見守り機器等の使用に関するヒヤリハット事例を定期的に収集し分析していること
- 施設内に安全対策を検討する委員会を設置し、定期的に開催していること
- 緊急時の対応体制や連絡経路が明文化され、職員に周知されていること
これらの要件は運営指導でも確認対象になりやすい項目です。機器を導入した記録だけでなく、研修実施記録、委員会の議事録、ヒヤリハット分析の記録を整えておくことが実地指導への備えにもなります。
導入までの実務チェックリスト
見守り機器や介護ロボットの導入を検討する際に確認しておきたい項目を整理しました。
- 現状の夜勤職員配置人数と入所者数を照らし合わせ、緩和特例が適用可能な水準か確認したか
- 導入予定の見守り機器が入所者に対してどの程度の割合で設置できるか試算したか
- 機器導入にあたり通信環境やナースコールとの連携が可能か確認したか
- 夜勤職員向けの操作研修の実施体制を整えたか
- 安全対策委員会の設置や議事録作成のルールを定めたか
- ヒヤリハット事例の収集フォーマットと分析担当者を決めたか
- 都道府県や市区町村の介護ロボット導入支援事業、ICT導入支援事業の公募時期を確認したか
- 緩和特例適用後も職員の急変対応やコール対応の負担が過度に偏らないか、試行期間を設けて検証したか
特に試行期間の検証は重要です。機器を導入しても、実際の運用が現場に定着するまでは時間がかかります。緩和特例の適用を急ぐあまり夜勤職員を先に減らしてしまうと、機器のアラート対応に追われて逆に業務負担が増える例も見られます。段階的に人員配置を見直しながら運用を安定させることが望ましいといえます。
補助金の活用も選択肢に入れる
見守り機器やインカム、介護記録ソフトなどの導入費用は決して小さくありません。都道府県が実施する介護ロボット導入支援事業やICT導入支援事業では、対象機器の導入費用の一部について補助を受けられる場合があります。補助対象となる機器の範囲や補助率、申請期間は都道府県ごとに異なるため、導入計画を立てる段階で早めに窓口へ確認することをおすすめします。
運営指導で確認されやすいポイント
緩和特例を適用している施設は、運営指導の際に次の点を確認されることが多くなっています。
- 見守り機器の設置台数と入所者数の対応関係が記録上明確か
- 研修記録に受講者全員の署名や実施日が残っているか
- 安全対策委員会の開催頻度と議事録の内容が実態を伴っているか
- ヒヤリハット事例の分析結果が現場改善につながっているか
記録が形式的なものにとどまっていると、緩和特例の適用要件を満たしていないと判断されるおそれがあります。日々の運用の中で記録を積み重ねていく体制を整えておくことが重要です。
まとめ
特養の夜勤職員配置基準は原則として入所者25人ごとに1人以上ですが、見守り機器等の導入と安全体制の確保という要件を満たすことで、27人ごとに1人以上への緩和特例を利用できます。緩和を受けるには機器の設置だけでなく、研修、委員会設置、ヒヤリハット分析といった運用面の整備が欠かせません。令和6年度改定では複数のテクノロジーを組み合わせた場合の生産性向上に関する評価も示されており、今後も見直しが続く分野です。導入を検討する際は最新の告示・通知を確認しながら、段階的に体制を整えていくことをおすすめします。
出典
- 厚生労働省令 指定介護老人福祉施設の人員、設備及び運営に関する基準(e-Gov法令検索) https://elaws.e-gov.go.jp/
- 厚生労働省 社会保障審議会介護給付費分科会 介護報酬改定に関する資料 https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/hukushi_kaigo/kaigo_koureisha/index.html
- 厚生労働省 介護ロボット・ICT導入支援に関する情報 https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/hukushi_kaigo/kaigo_koureisha/index.html