介護事業経営実態調査とは何か

介護事業経営実態調査は、厚生労働省が介護報酬改定の基礎資料とするために実施する調査です。介護サービス事業者の収支状況を事業所単位で把握し、サービス種類ごとの収支差率を算出します。令和6年度調査は令和5年度決算を対象としており、次期介護報酬改定の議論に用いられる重要なデータです。

特養の施設長や事務長にとって、この調査結果は自施設の経営状況を客観的に位置づけるための比較材料になります。単年度の自施設数値だけを見ていると、業界全体の傾向を見誤ることがあるため、調査結果との突き合わせが欠かせません。

特養の収支差率は他サービスと比べてどう違うか

令和6年度介護事業経営実態調査結果の概要によると、介護サービス全体の平均収支差率は2.5パーセントでした。これに対して介護老人福祉施設、いわゆる特養の収支差率は1.0パーセントにとどまっています。

他のサービス種類と比較すると、特養の水準の低さが際立ちます。

サービス種類収支差率
全サービス平均2.5%
介護老人福祉施設(特養)1.0%
介護老人保健施設2.1%
介護医療院3.8%
訪問介護7.8%
通所介護1.5%
特定施設入居者生活介護2.6%
認知症対応型共同生活介護1.9%

訪問系サービスは人員配置が比較的柔軟で稼働率を上げやすいのに対し、特養のような施設系サービスは建物維持費や夜間体制の人員配置など固定費の比重が大きく、収支差率が圧迫されやすい構造があります。

なぜ特養の収支差率は低水準なのか

特養の収支差率が低い背景には、いくつかの構造的な要因が重なっています。

人件費率の高さ

特養は24時間体制での介護と看護を提供するため、職員配置が手厚くなります。人件費は収入に対する比率が高くなりやすく、収支差率を押し下げる主要因になります。処遇改善加算による賃金引き上げは職員の処遇改善には直結しますが、その分だけ人件費率も上昇します。

稼働率の変動

入院や死亡による空床期間、待機者の少ない地域での入所調整の難しさは、稼働率の低下につながります。稼働率が1ポイント下がるだけでも年間収入への影響は小さくありません。

光熱費等の固定費上昇

電気代やガス代などのエネルギーコストの上昇は、施設系サービスに特に大きく響きます。入所者の生活環境を維持するための空調や給湯設備の稼働は削減しづらく、コスト増加分を吸収しにくい構造があります。

建物の老朽化に伴う修繕費

開設から年数が経過した施設では、計画的な修繕に加えて突発的な修繕費用が発生することがあります。これも単年度の収支差率を圧迫する要因です。

収支差率の低さは経営にどう影響するか

収支差率が低い水準で推移すると、以下のような影響が現場レベルで生じやすくなります。

  • 大規模修繕や設備更新への積立が進みにくい
  • 新規の人材確保に向けた処遇改善の原資が限られる
  • 見守り機器やICT導入などの投資判断が慎重にならざるを得ない
  • 内部留保が薄く、感染症流行など突発的な収支悪化への耐性が弱まる

経営指標としての収支差率は、単年度の数字そのものよりも、複数年の推移と自施設の規模特性を照らし合わせて読むことが重要です。

特養経営者は何をすべきか:実務チェックリスト

収支差率の改善は一つの施策で実現するものではなく、複数の着眼点を定期的に点検する積み重ねが必要です。

加算算定の点検

  • 看護体制加算、夜勤職員配置加算など算定可能な加算に取り漏れがないか
  • 看取り介護加算の算定要件を満たす記録体制が整っているか
  • 処遇改善加算の区分変更による収入増の余地がないか

人件費率の管理

  • 夜勤体制の人員配置がシフト全体で過不足なく組まれているか
  • 残業時間の恒常化が特定の職員に偏っていないか
  • 非常勤職員の活用で固定人件費の変動費化が図れているか

稼働率の維持

  • 退所後の入所調整リードタイムを短縮できているか
  • 待機者リストの更新頻度と連絡体制は適切か
  • 短期入所枠との振替で空床期間を圧縮できているか

コスト管理

  • 光熱費の契約プランを定期的に見直しているか
  • 修繕計画を中長期で策定し、突発的支出を平準化できているか
  • 委託費の契約内容を複数年ごとに精査しているか

次期改定に向けて注目すべき点

介護事業経営実態調査の結果は、次期介護報酬改定の基礎資料として用いられます。特養を含む施設系サービスの収支差率が低水準であることが示されれば、基本報酬や加算の見直し議論に影響を与える可能性があります。施設長や事務長は、改定前の審議内容を定期的に確認し、自施設の加算算定体制を早めに見直しておくことが望まれます。

まとめ

令和6年度介護事業経営実態調査では、特養の収支差率が全サービス平均を下回る1.0パーセントであることが示されました。人件費率の高さ、稼働率の変動、固定費の重さが背景にあり、単独の施策では改善しづらい構造的な課題です。加算算定の点検、人件費管理、稼働率維持、コスト管理という基本に立ち返り、継続的に経営指標を点検する体制づくりが求められます。

出典