特養の看取り期になぜ役割分担の線引きが必要なのか
特養における看取り期のケアは、配置医師、看護職員、介護職員、そして状況によっては医療保険の訪問看護が関わります。それぞれの職種には介護保険法や社会福祉士及び介護福祉士法などの法令で定められた権限と範囲があり、これを曖昧にしたまま運用すると、算定要件を満たせなかったり、無資格者による医行為とみなされるリスクが生じます。
特に看取り期は本人の状態変化が早く、家族対応や記録の負担も増えるため、誰が何を判断し、誰が何を実施するのかをあらかじめ整理しておくことが、現場の混乱を防ぐ前提になります。
配置医師の役割範囲はどこまでか
特養の配置医師は、指定介護老人福祉施設の人員、設備及び運営に関する基準において、入所者の健康管理及び療養上の指導を行う者として位置づけられています。看取り期における配置医師の主な役割は次の通りです。
- 入所者の状態を医学的に評価し、回復の見込みがない旨を判断する
- 看取りの方針について本人、家族への説明を行う(または看護職員と連携して行う)
- 死亡診断を行う
- 看護職員への医学的指示(服薬調整、疼痛緩和の方針など)を出す
配置医師による診療は介護保険施設サービス費に含まれる扱いとなるため、同一の傷病について医療保険の訪問診療を別途算定することはできません。この点は看取り期であっても変わらないため、配置医師がどこまで対応可能かを事前に協力医療機関と確認しておくことが重要です。
看護職員が担う判断と記録の範囲
看護職員は配置医師の指示のもとで日常の健康観察を行い、状態変化を早期に察知して報告する役割を担います。看取り期においては次のような業務が中心になります。
- バイタルサインの測定と状態の記録
- 疼痛や呼吸状態など、医師への報告が必要な変化の見極め
- 看取りに関する指針に基づく、入所者や家族への説明補助
- 介護職員への指導、喀痰吸引等の実施状況の確認
看護職員は医師の指示があれば一定の医療的処置を行うことができますが、死亡診断や治療方針の決定は医師の権限であり、看護職員が代行することはできません。夜間など医師が不在の時間帯にどこまで看護職員の判断で対応するかは、看取りに関する指針や施設の対応マニュアルで事前に取り決めておく必要があります。
介護職員が行える医療的処置の範囲
介護職員は原則として医行為を行うことができませんが、社会福祉士及び介護福祉士法に基づく喀痰吸引等研修を修了した認定特定行為業務従事者であれば、次の行為を実施できます。
- 口腔内、鼻腔内の喀痰吸引
- 気管カニューレ内部の喀痰吸引
- 胃ろう、腸ろうによる経管栄養
- 経鼻経管栄養
研修を修了していない介護職員がこれらの行為を行うことは、医行為の無資格実施に該当するおそれがあるため、看取り期に対応が必要になった時点で慌てないよう、研修修了者の人数と勤務シフトへの配置を事前に把握しておくことが欠かせません。
訪問看護はどのような場合に利用できるのか
特養の入所者は原則として医療保険の訪問看護を利用できません。これは、特養の介護報酬に看護職員の配置にかかる費用が含まれているためです。ただし例外として、末期の悪性腫瘍など厚生労働大臣が定める状態に該当し、主治医から特別訪問看護指示書が交付された場合に限り、医療保険の訪問看護を利用することができます。
この場合、訪問看護は配置医師や施設看護職員では対応が難しい専門的な医療処置、例えば疼痛コントロールのための点滴管理や、特殊な創傷処置などを補完する位置づけになります。訪問看護を導入する際は、誰が主治医となるか、配置医師との情報共有の方法、記録の分担をあらかじめ整理しておく必要があります。
役割分担を整理するためのチェックリスト
看取り期に入る前の段階で、次の項目を施設内で確認しておくことをおすすめします。
- 看取りに関する指針に、配置医師、看護職員、介護職員それぞれの役割が明記されているか
- 夜間、休日に配置医師と連絡が取れない場合の対応手順が定まっているか
- 喀痰吸引等研修修了者が各シフトに配置されているか
- 医療保険の訪問看護を利用する可能性がある場合、対象となる状態像を把握しているか
- 訪問看護と配置医師、施設看護職員の間で情報共有の方法が決まっているか
- 本人、家族への説明と同意の記録様式が整備されているか
協力医療機関との連携で補うべき部分
配置医師が対応できない急変時や、入院が必要な場合に備えて、協力医療機関との連携体制も看取り期の役割分担の一部として位置づける必要があります。特養は協力医療機関との連携により、入所者の病状が急変した場合の対応を確保することが求められており、看取り期における緊急時の受け入れ体制についても、あらかじめ取り決めておくことが望ましいといえます。
まとめ
特養の看取り期における医療的処置の範囲は、配置医師、看護職員、介護職員、そして例外的に関わる医療保険の訪問看護それぞれで法令上の権限が異なります。配置医師は医学的判断と死亡診断、看護職員は日常の観察と報告、介護職員は研修修了を前提とした一部の医療的処置、訪問看護は厚生労働大臣が定める状態に限った補完的な関与という形で整理できます。看取りに関する指針や対応マニュアルにこれらの役割を明記し、夜間や緊急時の連絡体制とあわせて定期的に見直すことが、安定した看取りケアの土台になります。
出典
- 指定介護老人福祉施設の人員、設備及び運営に関する基準(平成11年厚生省令第39号)e-Gov法令検索 https://elaws.e-gov.go.jp/
- 社会福祉士及び介護福祉士法(昭和62年法律第30号)e-Gov法令検索 https://elaws.e-gov.go.jp/
- 厚生労働省 喀痰吸引等研修関連情報 https://www.mhlw.go.jp/
- 厚生労働省 訪問看護療養費に係る留意事項通知(特別訪問看護指示書、厚生労働大臣が定める疾病等)https://www.mhlw.go.jp/
- 厚生労働省 介護報酬の算定構造及び介護給付費単位数表に関する通知 https://www.mhlw.go.jp/