特養の経営を検討するうえで、多床室とユニット型の違いは避けて通れない論点です。両者は単に居室の広さやプライバシーの違いにとどまらず、人員配置基準、居住費の考え方、整備費の負担構造まで含めて制度設計が異なります。本稿では制度上の違いを整理したうえで、次期改定に向けた論点と、施設が今から準備しておくべき視点を解説します。
多床室とユニット型、制度上の違いは何か
居室の定義と人員配置基準の違い
指定介護老人福祉施設の人員、設備及び運営に関する基準では、居室類型によって人員配置の考え方が異なります。多床室や従来型個室では、介護職員及び看護職員の員数は常勤換算で入所者数を3で除した数以上、いわゆる3対1配置が基本です。夜勤職員についても、施設全体の入所者数に応じた段階的な基準が設けられています。
一方でユニット型は、日中はユニットごとに常時1人以上の介護職員又は看護職員を配置することが求められ、夜間及び深夜は2ユニットごとに1人以上の夜勤職員配置が基準とされています。入居者の状況によってはさらなる増員も必要になります。つまりユニット型は、施設全体の人数対比ではなく、ユニット単位で職員を固定配置する考え方が基礎にある点が、多床室との大きな違いです。
居住費(基準費用額)の考え方の違い
介護保険施設の居住費は、食費とあわせて利用者が原則負担する費用であり、その基準となる金額は厚生労働大臣が定める基準費用額として告示されています。居室類型ごとに基準費用額の水準は異なり、個室環境を提供するユニット型個室は多床室よりも高い水準で設定される構造になっています。これは建築コストやプライバシー確保の対価という考え方が反映されたものです。逆に言えば、多床室は居住費収入の単価が低く抑えられている分、整備費や減価償却の負担も相対的に小さい構造になっているということです。
収益構造はどこで分かれるのか
施設整備費と減価償却の負担
ユニット型は個室化とユニットごとの共同生活室の整備が必要なため、建築コストが多床室型より高くなる傾向があります。整備費が高い分、減価償却費や借入金の返済負担も重くなりやすく、単年度の収支に与える影響は多床室より大きくなりがちです。整備時に活用した補助金の有無や返済条件によって、同じ定員規模でも収支構造は大きく変わります。
人件費構造の違い
ユニット型はユニットごとの配置が求められるため、入所者数が少ないユニットであっても最低限の職員を配置する必要があります。これは稼働率が低下した場合に人件費率が上がりやすいという特性につながります。多床室は施設全体での人数対比配置のため、稼働率変動に対する人件費の弾力性がユニット型より高いという違いがあります。施設の稼働率管理や夜勤シフト設計を検討する際には、この違いを踏まえた収支シミュレーションが必要です。
加算算定の可否と単位数の違い
介護福祉施設サービス費は居室類型ごとに単位数が設定されており、ユニット型は個室環境への評価が単位数に反映されています。看取り介護加算や看護体制加算など多くの加算は居室類型にかかわらず算定可能ですが、基本サービス費の単位数そのものが異なるため、入所者の要介護度構成や居室類型の比率によって施設全体の収入構造は変わってきます。経営指標を見る際は、居室類型別に単位数と稼働率を分けて集計することが実務上重要です。
次期改定で何が論点になっているか
多床室の室料負担見直しの経緯
社会保障審議会介護給付費分科会では、在宅との負担の公平性の観点から、特養等の多床室についても室料相当額を利用者負担に含めるべきではないかという議論が重ねられてきました。令和6年度介護報酬改定の審議過程でもこの論点は取り上げられましたが、最終的に当該改定での導入は見送られ、引き続き検討する課題として整理された経緯があります。
今後の検討スケジュールをどう見るか
介護報酬改定は原則として3年に一度のサイクルで行われており、直近の改定は令和6年度に実施されています。多床室の室料負担をめぐる議論は一度の改定で決着するものではなく、社会保障審議会の資料や議事録を継続的に確認しておくことが、施設側の備えとして欠かせません。見直しが実現した場合、多床室の利用者負担額が引き上げられる可能性があり、入所申込みの動向や利用者負担段階(負担限度額認定)の区分にも影響が及ぶ可能性があります。
施設は今何を準備すべきか
次期改定の動向を待つだけでなく、現時点でも居室類型別の収支を把握しておくことが経営判断の土台になります。以下のチェックリストを参考にしてください。
- 居室類型別(多床室・従来型個室・ユニット型個室・ユニット型個室的多床室)に稼働率と単位数実績を分けて集計しているか
- ユニットごとの人員配置とシフトが基準省令の要件を満たしているか定期的に確認しているか
- 整備費の減価償却スケジュールと居住費収入のバランスを把握しているか
- 利用者負担段階(負担限度額認定)の区分別に入所者構成を把握しているか
- 社会保障審議会介護給付費分科会の資料を定期的に確認し、多床室の室料負担見直しなどの論点を把握しているか
- 将来の改修や建替え時に、多床室とユニット型のどちらを選択するか、整備費補助の動向を踏まえて検討する体制があるか
これらの情報を居室類型別に整理しておくことで、次期改定で制度変更があった場合にも、影響額の試算や利用者への説明を迅速に行うことができます。
まとめ
多床室とユニット型は、人員配置基準、居住費の基準費用額、整備費の負担構造という複数の点で制度設計が異なり、それが施設全体の収益構造の違いにつながっています。次期改定では多床室の室料負担見直しが再び論点になる可能性があり、施設は居室類型別の収支を日頃から見える化しておくことが重要です。制度動向を待つだけでなく、現状の収支構造を正確に把握し、将来の整備計画や利用者負担の説明に備えておくことが、経営の安定につながります。
出典
- 厚生労働省令第39号「指定介護老人福祉施設の人員、設備及び運営に関する基準」
- 厚生労働省「令和6年度介護報酬改定について」(社会保障審議会介護給付費分科会資料)
- 厚生労働省「介護保険施設における食費及び居住費に関する基準費用額」関連告示
- 厚生労働省「社会保障審議会介護給付費分科会」資料一覧