特養の配置医師確保はなぜ難しくなっているのか
特別養護老人ホームの運営において、配置医師の確保は年々難しさを増しています。地域によっては開業医の高齢化や後継者不足が進み、施設の嘱託医を新たに引き受けてくれる医師を見つけにくい状況があります。また非常勤で施設に関わる医師自身も外来診療や訪問診療との掛け持ちで時間的余裕が限られており、一人の医師だけで入所者全員の健康管理と緊急時対応を担うことが現実的でない施設も出てきています。
こうした背景から、複数の非常勤医師を組み合わせて配置医師の体制を組む施設が増えています。本記事では、人員基準が求める要件を確認したうえで、非常勤医師の複数体制をどのように設計し、運用すればよいかを実務の視点で整理します。
特養の人員基準は医師の員数を何と定めているか
指定介護老人福祉施設の人員、設備及び運営に関する基準では、医師の員数について次のように定められています。
- 入所者に対し健康管理及び療養上の指導を行うために必要な数を置くこと
- 常勤・非常勤の別や、具体的な人数は明記されていない
- 施設の入所者数や医療的ケアの必要度に応じて、施設側が必要数を判断する
この規定は員数を固定していないため、一人の常勤医師で満たすことも、複数の非常勤医師を組み合わせて満たすことも制度上は可能です。重要なのは、施設として入所者の健康管理と療養上の指導に支障がない体制を実質的に確保できているかどうかです。単に契約書上の人数を揃えるだけでなく、日常の診療体制、緊急時の連絡体制、記録の一貫性が担保されているかを運営指導でも確認されます。
非常勤医師の複数体制はどう設計するか
複数体制を組む際には、役割分担を曖昧にしないことが最初の分かれ目になります。よくある例として、次のような分担方法があります。
- 曜日別に担当を分ける(例、週前半と週後半で担当医師を分ける)
- 診療科目で分ける(内科系の定期診察を担う医師と、皮膚科・整形外科など専門領域を担う医師を分ける)
- 平日と休日・夜間の対応可否で分ける
- 主治医的な役割を担う医師と、緊急時のバックアップに回る医師を分ける
どの分担方法であっても、入所者ごとにどの医師が主担当かを施設側で一覧化し、看護職員・介護職員が迷わず連絡できるようにしておくことが欠かせません。担当医師が不在の時間帯に誰が対応するのかという空白を作らないことが、複数体制の設計で最も重要な視点です。
複数体制を導入する際の実務チェックリスト
複数の非常勤医師を配置する際に確認しておきたい項目を整理します。
- 入所者ごとの主担当医師が一覧で分かる資料があるか
- 担当医師不在時の代替連絡先が明確になっているか
- 各医師との契約書に診療日、診療時間、緊急時対応の可否が明記されているか
- 配置医師間で情報共有する仕組み(申し送り、カルテ共有、カンファレンス)があるか
- 協力医療機関との役割分担が配置医師の体制変更後も整合しているか
- 看護職員が夜間に連絡すべき優先順位(担当医師、次点医師、協力医療機関)を明文化しているか
- 配置医師緊急時対応加算の算定要件(対応医師の特定、対応方法の取り決め)を満たしているか
このうち特に見落とされやすいのが、複数の医師間での情報共有です。担当が分かれることで、一人の医師が入所者の全体像を把握しにくくなるという弱点があります。定期的なカンファレンスや共通の記録様式を用意し、誰が読んでも経過が分かる状態を保つ工夫が必要です。
契約書に盛り込むべき項目
非常勤医師との契約書は、口頭の取り決めだけで運用されているケースも見られますが、運営指導や事故発生時のトラブルを避けるためにも書面化しておくことが望まれます。最低限盛り込みたい項目は次のとおりです。
- 診療日、診療時間、診療場所
- 担当する入所者の範囲(全入所者か、一部の入所者か)
- 緊急時の連絡方法と対応可否
- 報酬の算定方法(診療報酬に基づくものか、施設との個別契約による報酬か)
- 記録の作成方法と保管場所
- 契約期間と更新条件
複数の医師が関わる場合は、それぞれの契約書で担当範囲が重複していないか、逆に抜け落ちている時間帯がないかを突き合わせて確認しておくことが大切です。
配置医師緊急時対応加算との関係をどう整理するか
配置医師緊急時対応加算は、施設の求めに応じて配置医師が早朝、夜間、深夜に施設を訪問して診療を行った場合などに算定できる加算です。単位数は時間帯によって次のように定められています。
- 通常時間帯の対応、125単位
- 早朝・夜間の対応、325単位
- 深夜の対応、650単位
複数の非常勤医師を配置している施設では、実際に緊急時対応を行った医師が誰であるかを記録に残す必要があります。担当医師が交代制になっている場合でも、対応した医師名、対応日時、対応内容を記録しておくことで、算定要件を満たしていることを後から確認できるようにしておきます。加算の算定要件は、配置医師が施設との間で緊急時の対応方法についてあらかじめ取り決めていることが前提になりますので、複数体制であっても、この取り決めを医師ごとに個別に確認しておく必要があります。
複数体制導入でよくある課題
複数の非常勤医師体制を導入した施設からは、次のような課題が挙がることがあります。
- 医師間で診療方針にばらつきが出る
- 入所者や家族が担当医師の顔と名前を覚えにくい
- 看護職員が誰に連絡すべきか判断に迷う場面がある
- 医師同士の顔合わせの機会が少なく、情報共有が形骸化しやすい
これらの課題に対しては、年に数回でも配置医師全員が顔を合わせる場を設ける、入所者ごとの担当医師を家族にも周知する、看護職員向けに連絡フローの一覧表を掲示するといった対応が有効です。体制を組んだ後も定期的に運用を見直し、抜け漏れがないかを確認する姿勢が求められます。
まとめ
特養の配置医師確保が難しくなる中で、非常勤医師の複数体制は現実的な選択肢の一つです。人員基準は医師の員数について柔軟な定め方をしているため、複数の非常勤医師を組み合わせること自体は制度上問題ありません。重要なのは、担当範囲を明確にした契約書を整え、緊急時の連絡フローと情報共有の仕組みを設計し、配置医師緊急時対応加算などの算定要件と整合させることです。体制を組んだ後も、看護職員や介護職員が迷わず動けるかどうかを定期的に点検し、運用を見直していくことが、複数体制を機能させる鍵になります。
出典
- 指定介護老人福祉施設の人員、設備及び運営に関する基準(平成11年厚生省令第39号) e-Gov法令検索 https://elaws.e-gov.go.jp/
- 厚生労働省 介護給付費単位数等サービスコード表(配置医師緊急時対応加算) https://www.mhlw.go.jp/
- 厚生労働省 令和3年度介護報酬改定における改定事項について https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000188411_00034.html