
認知症グループホームのBCPは機能するか?災害時の職員確保率で測る実効性チェック
監修: 中村 康宏(株式会社Anchor 代表取締役 / 医師)
TL;DR
- BCPは策定しているだけでは機能せず、職員参集率や訓練実施状況といった運用指標での検証が必要です
- 災害時の職員確保は、自法人の努力だけでなく近隣施設との相互応援協定や地域包括ケアシステムとの連携が現実的な解決策になります
- 利用者安全確保には72時間分の水・食料備蓄と、認知症の症状特性に応じた個別避難計画の整備が欠かせません
なぜBCPを策定しても「使えない計画」になってしまうのか
2024年度の介護報酬改定により、認知症グループホームを含む全ての介護サービス事業者にBCP(事業継続計画)の策定と研修・訓練の実施が義務付けられました。多くの施設で書類としてのBCPは完成しているものの、実際に災害が発生した際に機能するかどうかは別問題です。
厚生労働省が公表した調査では、BCPを策定済みと回答した介護事業所は全体の8割を超える一方、年1回以上の訓練を実施している事業所は5割程度にとどまるというデータがあります。策定率と実効性の間には大きなギャップが存在しているのが現状です。
実効性のないBCPに共通する特徴は次の3点です。
- テンプレートをそのまま使用し、自施設の建物構造や人員配置が反映されていない
- 職員が内容を把握しておらず、有事の際に誰も読み返さない
- 訓練を「読み合わせ」で終えており、実際の行動確認をしていない
書類を整えることと、実際に機能する体制を作ることは別の取り組みだと理解することが出発点になります。
BCPの実効性はどの指標で測るべきか
BCPの実効性を客観的に確認するためには、以下のような数値指標を定期的にチェックすることが有効です。
| 指標 | 内容 | 目安 |
|---|---|---|
| 職員参集率 | 災害発生後3時間・24時間・72時間時点で出勤可能な職員の割合 | 24時間以内50%以上 |
| 訓練実施回数 | 年間の避難訓練・机上訓練の実施回数 | 年2回以上 |
| 備蓄充足率 | 利用者・職員分の水・食料・医薬品の備蓄が何日分あるか | 72時間分以上 |
| 情報伝達到達率 | 緊急連絡網で全職員に連絡が届くまでの時間と到達率 | 1時間以内90%以上 |
| 個別避難計画整備率 | 利用者ごとの避難支援計画が作成されている割合 | 100% |
これらの指標を年に1〜2回、実際の訓練や抜き打ちの連絡テストで測定し、数値が目標を下回った場合は計画の見直しにつなげる運用が求められます。数値化することで、感覚的な「できているつもり」を排除できます。
災害時の職員確保、何をどこまで準備すべきか
認知症グループホームは少人数体制で運営されているケースが多く、災害時に職員が確保できないことが最大のリスクになります。特に夜勤帯に大規模災害が発生した場合、1人夜勤の施設では対応が極めて困難です。
職員確保のための現実的な打ち手は次の通りです。
- 職員の居住地マップを作成し、施設から30分圏内・1時間圏内・それ以上に分類しておく
- 家族の安否確認や自宅の被災状況によって出勤できない職員を想定し、参集率を保守的に見積もる
- 近隣の同一法人施設や地域の他事業所と相互応援協定を締結し、応援職員派遣の手順を明文化する
- 地域の介護支援専門員連絡会や地域包括支援センターと平時から関係を構築し、災害時の情報共有窓口を確保する
- 職員向けに緊急連絡アプリやSNSグループを整備し、電話回線が混雑した場合でも安否確認ができる体制を作る
相互応援協定については、単に協定書を交わすだけでなく、年1回程度は合同訓練を行い、実際に応援職員が施設のレイアウトや利用者の特性を理解しておくことが重要です。協定が「紙の上だけ」で終わらないようにする工夫が実効性を左右します。
利用者の安全確保、具体的に何を準備すればよいか
認知症の利用者は、災害時の環境変化や避難行動そのものが大きなストレスとなり、混乱や徘徊、拒否行動につながりやすい特性があります。安全確保のためのチェックリストを整理します。
| 項目 | 確認内容 | 実施状況の記録 |
|---|---|---|
| 個別避難計画 | 利用者ごとの移動手段・介助方法・服薬情報を記載 | 有/無 |
| 備蓄品 | 水・食料・おむつ・常備薬を72時間分確保 | 有/無 |
| 避難経路 | 車椅子・歩行器利用者でも通行可能か現地確認済みか | 済/未 |
| 家族連絡 | 災害時の家族への連絡手段と優先順位を明確化 | 済/未 |
| 代替施設 | 施設が使用不能な場合の避難先候補を複数確保 | 有/無 |
特に個別避難計画は、身体機能や認知機能の程度によって必要な支援が大きく異なるため、利用者ごとに作成し直す必要があります。全員一律の避難マニュアルでは対応しきれない点に注意が必要です。
訓練とPDCAはどのように回せばよいか
BCPは一度作って終わりではなく、訓練を通じて弱点を洗い出し、継続的に改訂していくことが本来の目的です。年間スケジュールの一例を示します。
- 4月:年間BCP研修(全職員対象、座学)
- 7月:夜間想定の避難訓練(実動、参集率測定含む)
- 10月:地震想定の机上訓練(他施設との合同実施)
- 1月:BCP見直し会議(訓練結果を反映した改訂)
訓練後には必ず振り返りシートを作成し、想定通りに進まなかった点、時間がかかりすぎた点を記録します。この記録の蓄積こそがBCPの実効性を継続的に高める資産になります。
まとめ
BCPの実効性は、策定した書類の厚みではなく、職員参集率や訓練実施状況といった数値でしか測ることができません。災害時の職員確保は自法人だけで完結させようとせず、地域の他事業所との相互応援体制を平時から築いておくことが現実的な解決策です。利用者の安全確保についても、一律のマニュアルではなく個別避難計画に落とし込むことで、実際の災害時に機能する計画になります。年に一度の形式的な見直しではなく、訓練と改訂を繰り返すPDCAサイクルとして運用することが、実効性あるBCPへの近道です。