
D to P with Nの導入基準とは?認知症グループホームの医療連携進化ロードマップ
監修: 中村 康宏(株式会社Anchor 代表取締役 / 医師)
TL;DR
D to P with Nは看護師が患者に同席してオンライン診療を行う仕組みで、2024年度診療報酬改定で要件が整理されました。認知症グループホームでは嘱託医の往診負担軽減と夜間対応の質向上に直結し、2026年度改定でさらなる活用余地が広がると見込まれます。本記事では仕組みの整理から導入ロードマップ、費用感、実務チェックリストまでをまとめます。
D to P with Nとは何か?
D to P with Nは、Doctor to Patient with Nurseの略で、医師と患者をオンラインでつなぎながら、患者のそばに看護師が同席して診療を補助する形態を指します。2018年のオンライン診療指針改定で概念が示され、2022年度診療報酬改定で在宅患者訪問診療料の加算対象として明確に位置づけられました。2024年度改定ではさらに要件が緩和され、施設系サービスでの活用可能性が広がっています。
通常のオンライン診療との違いを整理すると次の通りです。
| 項目 | 通常のオンライン診療 | D to P with N |
|---|---|---|
| 同席者 | なし(患者単独) | 看護師が同席 |
| バイタル測定 | 患者本人または家族 | 看護師が実施 |
| 身体所見の補助 | 困難 | 触診補助や創部観察が可能 |
| 対象患者 | 意思疎通が可能な患者 | 認知症など意思疎通が難しい患者も対応可 |
| 算定要件 | 情報通信機器を用いた場合の評価 | 訪問看護と連携した評価が可能 |
認知症グループホームの入居者は自ら症状を的確に伝えることが難しいケースが多く、看護師が同席して観察情報を医師に伝える仕組みは相性が良いとされています。
なぜ2026年にGHで注目されるのか?
背景には三つの要因があります。
第一に、嘱託医の高齢化と往診負担の増加です。ある調査では、グループホームの嘱託医の平均年齢は60代後半という報告があり、夜間往診の継続が難しくなっている施設が増えています。
第二に、看護師の配置基準は緩やかですが、夜間の医療判断を現場スタッフだけで担うのは負担が大きいという実情があります。オンコール対応の看護師が判断に迷うケースで、D to P with Nを使えば医師の直接判断を仰げます。
第三に、2026年度介護報酬改定に向けた議論の中で、施設系サービスにおける情報通信機器を用いた医療連携の評価拡充が検討されています。医療連携体制加算やオンライン診療関連の評価が見直される可能性が高く、早期に体制を整えておくことが経営上のアドバンテージになります。
現状のGH医療連携における課題
D to P with Nを検討する前に、多くのグループホームが抱える課題を整理します。
- 嘱託医の訪問頻度が月1〜2回にとどまり、急変時の初動が遅れる
- 夜間は看護師不在の施設が多く、判断を介護職員に委ねざるを得ない
- 家族への病状説明のタイミングが医師の訪問日に限定される
- 通信環境が未整備で、オンライン診療自体を実施できない施設が一定数存在する
実際に、施設種別ごとのオンライン診療導入率を比較した調査では、特別養護老人ホームが約35パーセントであるのに対し、認知症グループホームは20パーセント台にとどまるというデータもあります。人員配置や建物構造の違いが影響していると考えられます。
D to P with N導入ロードマップ
2026年に向けて段階的に体制を整えるロードマップを示します。
ステップ1 現状診断(1〜2か月)
- 通信環境(Wi-Fi、回線速度)の確認
- 嘱託医の対応可能時間帯の洗い出し
- 夜間オンコール看護師の稼働状況の棚卸し
ステップ2 機器・体制整備(2〜3か月)
- タブレットまたは専用端末の導入
- バイタル測定機器(血圧計、パルスオキシメーターなど)の常備
- 訪問看護ステーションとの連携契約見直し
ステップ3 試験運用(1〜2か月)
- 週1回程度の定期オンライン診療から開始
- 看護師同席時のチェックリストを用いた記録運用
- 医師側との通信トラブル対応フローの確認
ステップ4 本格運用と評価(継続)
- 月次で利用件数、往診回数の変化を記録
- 家族満足度アンケートの実施
- 2026年度改定情報を踏まえた算定可否の再確認
必要な機器・体制とコストの目安
導入にあたって必要となる費用感を整理します。
| 項目 | 初期費用の目安 | ランニングコストの目安 |
|---|---|---|
| タブレット・専用端末 | 5万円〜15万円 | 保守費用 月数百円〜千円 |
| 通信回線整備 | 3万円〜10万円 | 月額5千円〜1万円 |
| オンライン診療システム利用料 | 初期設定費用0〜5万円 | 月額1万円〜3万円 |
| バイタル測定機器一式 | 5万円〜10万円 | 消耗品費 月数千円 |
合計すると初期費用は20万円から40万円程度、月額のランニングコストは2万円から5万円程度が目安になります。往診回数を月1回減らせれば、往診にかかる交通費や時間的コストを相殺できる施設も多いとされています。
算定要件との関係で押さえておきたいこと
D to P with Nの評価は医療保険側の診療報酬で定められていますが、介護施設側では医療連携体制加算などとの関係を整理しておく必要があります。特にグループホームでは次の点を確認してください。
- 嘱託医契約の中にオンライン診療対応を明記しているか
- 看護師同席の役割分担を契約書や運営規程に反映しているか
- 記録様式にD to P with N実施時のバイタル値、医師の指示内容を残す欄があるか
- 家族への同意取得プロセスが整っているか
2026年度改定では、施設系サービスにおける情報通信機器活用の評価拡充が論点になると見られており、算定要件の変更に対応できるよう、契約書や運営規程を柔軟に見直せる体制にしておくことが望まれます。
導入チェックリスト
実装を検討する際に確認しておきたい項目を一覧にしました。
- 施設内の通信速度は安定しているか(目安として下り10Mbps以上)
- 嘱託医はオンライン診療への対応に前向きか
- 夜間オンコール看護師とD to P with N運用の役割分担は明確か
- バイタル測定機器は入居者数に対して十分な台数があるか
- 記録様式にオンライン診療実施記録の欄を追加したか
- 家族への説明資料と同意書は準備できているか
- 通信トラブル時の代替手段(電話診療への切替など)を定めているか
- 月次でオンライン診療の利用実績を集計する担当者を決めているか
八項目のうち六項目以上が満たせていれば、試験運用を始められる状態と言えます。
想定される課題とリスク
導入を進める上で想定しておきたい課題もあります。
通信障害が発生した際の代替フローが未整備だと、緊急時に診療自体が滞るリスクがあります。あらかじめ電話診療への切替手順を明文化しておくことが重要です。
また、看護師が同席する時間帯が限られる施設では、日中のみの運用にとどまり、夜間の急変対応には直接効果が及ばない場合があります。訪問看護ステーションとの連携契約を見直し、夜間帯の看護師確保策とセットで検討することが求められます。
家族側の受容度にも差があります。対面診療を重視する家族には、D to P with Nのメリットを丁寧に説明し、段階的に理解を得ていくプロセスが必要です。
まとめ
D to P with Nは、看護師の同席によって認知症のある入居者でも安全にオンライン診療を受けられる仕組みであり、嘱託医の負担軽減と夜間対応力の強化を同時に実現できる可能性を持っています。2026年度改定に向けては、通信環境の整備、看護師との連携体制の構築、記録様式の見直しを段階的に進めておくことが、算定要件の変更にも柔軟に対応できる土台になります。まずは現状診断から着手し、小さな試験運用を積み重ねていくことが実装成功への近道です。